| 長文ですが、読んでみてください。興味わく記事です |
平成17年2月14日付毎日新聞夕刊「特集WORLD」より (2004/02/18 承認済) |
| 春の訪れ フキノトウ 香りと苦みに薬用効果 | |
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日が少しずつ長くなってきた。春はもうすぐそこに来ている。 この季節、雪の間からひょっこり顔を出し、待ちわびた春の訪れを知らせてくれるものといえば、 フキノトウだろう。 といっても「フキノトウ」という植物が存在するわけではない。 「フキ」の花芽部分がフキノトウである。なぜ「フキノトウ」か。 フキの頭の部分だから「蕗の頭」という説や、形が塔の九輪に似ているのでフキの塔の意からきている ---などの説がある。 ◆メスはまずい 盛りを過ぎることを「トウが立つ」と言うが、これはフキノトウが伸びて(立って)花開くと、苦みが増し味が落 ちることに由来している。 フキノトウの成長した姿であるフキはキク科の多年草で、わさびなどと同じ日本原産の植物だ。 雌雄異株で、オスの花は淡黄色、メスの花は白色である。食べるとメスのほうがまずいらしい。 だが、うろこ状の包に包まれている間は区別なく、古くから食べられている。 「野菜園芸大辞典」などには、フキはゴボウなどとともに最も古い野菜であるとされている。 「延喜式」(927年)にはすでに栽培に関する記述があり、同じころの「和名抄」に「布由岐」、それ以前の 「本草和名」(918年)に「布由岐」と記されているから、少なくとも平安時代には既に食されていたと思われる。 フキの語源には、古名の「フフキ」が転じてフキとなったという説や、冬に黄色の花が咲く「冬黄(フユキ)」の省 略と言う説など、いろいろな説があるが、面白いのが国語学者の金田一春彦さんの説である。 ある時、長崎は対馬へ出かけた金田一先生。あるお屋敷でご不浄を借りて驚いた。そこにはうずたかくフキ の葉が置いてあり下をのぞいたら使用済みのフキの葉が捨ててあったとか。トイレットペーパーがない時代、 用を足した後フキの葉で「拭いた」ことに由来しているのでは、というわけである(「言葉の歳時記」新潮文庫) ◆冬眠から覚めたクマも 蕗の薹舌をにげゆくにがさかな 高浜虚子 フキノトウといえば、野趣あふれる香りと苦みが特徴。その独特の苦みを敬遠する人も多い。 俗に、冬眠から目覚めたクマは一番最初にフキノトウを探して食べるのだそうだ。 ◆旬のものとして珍重 「春苦味、夏は酢の物、秋辛味、冬は油と合点して食べ」。明治の食養家、石塚左玄はこんな道歌を残した。 「春は苦いものを食べ冬の間に蓄えられた脂肪をやわらげ、夏は酢の物で食欲を増進させ、秋の辛みは夏場 に緩んだ体に刺激をあたえ、いよいよ来たらん冬には皮下脂肪を蓄えなければならないので油分の多いものを というように四季のめぐりに応じて食べるものを変えなさいという知恵なのです」と北大路魯山人に師事した 食物史研究家の平野雅章さん(74)。 「フキノトウの魅力は、やはり香りと苦み」と言い切る。 「懐石料理では『箸洗い』によく使われたり、『浮かし』と言って、刻んですまし汁に散らしたり。 昔から『春野料理には苦みを盛れ』という言葉があるが、フキノトウの苦みの中にはキク科特有の香りがあって まだ肌寒い春先にふさわしい味覚と言えます。 主役にはなり得ないけど、旬のものとして昔から珍重されてきた。フキノトウは、いわば春の使者ですよ」 ◆大人の苦み 最もポピュラーな食べ方は、やはりてんぷらだろう。 作家の池波正太郎さんに愛された料理人、「てんぷら近藤」の近藤文夫さん(57)の元を訪ねた。 「あんな小さいのに、香りよく春を告げるものはフキノトウのほかにはないですね。春を呼ぶのになくてはなら ない素材です。雪が降った後、2月から3月にかけて出てくるのが一番おいしい」。 フキノトウはあくが強いが、近藤さんは「ゆでるより、油で処理した方が色がかわらずきれいです」という。 「てんぷらはにおいがこもらないよう衣は薄めに。苦みが苦手な人はガクを開いて揚げた方が苦さが半減します」 池波さんはフキノトウのてんぷらが好きだった。評論家の山本健吉さんもフキノトウが好きで、雑炊の中にフキノ トウを刻んだものを入れて食べていた。 俳人の水原秋桜子さんのお気に入りは田楽。近藤さんに「田楽の春随一や蕗の薹」という句を書きしためてくれ たという。「作家や俳人など季節に敏感な方は旬のものを好みましたね。 苦みを若い人は嫌がりますが、年をとるにつれ、なつかしく感じ好むようになるものです」 早々、揚げたてのてんぷらをいただいた。中温のゴマ油でさっと揚げたてんぷらは、淡い緑の色鮮やかで、 衣はサクッと歯ざわりがよい。 口に入れると春の香りがにおい立つ。一口、二口かみ締めると苦みがジワリとやってきた。 |